世の中は広い。世情の流れに距離を置き、個性の強い製品が多い石黒。その2代目の石黒雅幸社長はかなりユニークな人柄である。栃木県鹿沼市の同社は、昭和37(1962)年創業で、国産米100%使用の高級あられの専業メーカーだ。
歯が折れる⁉『ゲンコツ』(右)と社長のイラスト付き『カレーあられ』(左)
同社の看板にもなっている『医王焼』は、目と鼻の先にある県指定の文化財の古刹、弥勒院醫王寺に因んだもの。平成元年の全国菓子大博覧会(松江開催)では、大丸サイズの『大満月』が食糧庁長官賞を得ている。
今では大丸サイズのおかきも珍しいが、同社では小粒から大判のおかきを製造する中で、個性を強く発揮するのは、やはり、大判のおかきだ。国産もち米使用のごつい生地と、生醤油にこだわった付けだれ。ジックリ噛み砕くうちに、米と醤油の旨みが混然と立ち上がる作りだ。
例えば『歯が折れる3種ゲンコツ』(写真上)。角餅と筏のサイズ違い3種が入っている。製品名の通り、不用意にかぶりつくと歯が折れそうな傑物だ。また、小ぶりの角餅の海苔巻き『ぽんこつおかき(無選別)』(写真下)は、但し書きに「少々割れちゃってるポンコツですが美味しくいただいてください」とある。変わり種では子供に人気の『イチゴみるく』や、地元の鹿沼土を模したポン菓子など、およそ30種を製造している。
名前はユニークだが大真面目な『ぽんこつおかき』
世の中、ソフトでマイルドなこの頃だが、こうしたクセの強さは、大手とは違ったアピールとして、消費者の目と関心を惹く。しかし、当の石黒社長は謙虚に語る。
「他とは違う特徴をだしたいという思いもあるが、『ぽんこつ』については、娘から“このぽんこつ親爺!”と背中からどやし付けられたのが命名の由来です(笑)」
12、3年ほど前、工場が火災を起こして、どん底を見ていた時の社長に、次女が投げつけた言葉だった。ホントだな、挫けていないで謙虚になろう。初心に返って、というきっ掛けを与えてくれたその言葉から、生業に向き合い、立ち直りを期すと同時に、製品名として使うことにしたのだという。
石黒の先代は下町浅草の出身で、東京大空襲で焼け出され、現在地に疎開してきた。同社のあられ作りは、創業者の父幸八郎氏が旧日乃本米菓などでの修行を経て始まった。ルーツは江戸前の正統派。今は手間や環境などから珍しくなった天日干しもおこなう。