アサヒグループ食品は、長期ビジョン「私たちは、『おいしさ+α』を追求し、『心とからだの健やかさ』の実現に貢献する企業を目指します」のもと、2023年はサステナビリティの取り組みを強化している。1月末に開催した事業方針説明会で、川原浩代表取締役社長(写真上)は「私たちの事業活動そのものが、社会課題の解決、つまりサステナビリティに繋がっている。従って、サステナビリティへの貢献が、理念・新商品・新サービスにおいて当社の根幹にある」と、その重要性を説いた。就任3年目となった川原社長に改めて、これまでの振り返りや今後の展望などについて聞いた。
前回(2022年3月)インタビューした際、「仕事が楽しい」という言葉が頻繁に出てきた。その気持ちは今でも変わらないのだろうか。
「社長の発言として正しいか分からないが、相変わらず楽しい。もちろん、会社の責任を背負い、社員の人生を考えている。ということは、非常に苦しく辛い道のりを歩んでいるはずなのだが…」と、自分でもなぜ楽しいと言えるのか、不思議に思っているようだ。
「これをどう説明すればいいのかよく考えてみると、社員のみんなと一緒に仕事ができるからだと思う。我々が扱っている食品は、お客さまに直接届き、ダイレクトに評価が返ってくる。上手くいく時もあれば、そうじゃない時もある。ダメだったら、反省してやり直す。こうして、常にお客さまや社会とダイレクトにコミュニケーションを取りながら、皆と一緒に世の中に商品を提供できるのが、とにかく嬉しい」。
コロナ禍も、全社一丸となって乗り切ってきた。マイナスばかりではなかったようだ。
「このままではいけないということを、全員が肌で感じていた。もっと良い方向へ変わっていかないと、会社や自分にとっても良くないし、お客さまにも評価されない。ではどうすれば良いのかと問いかけた時、皆からの反応が素早かった。激しい環境の変化に対応し、先取りしていくことで初めて、次の時代が描ける。そういう会話が、会社の中で自然と交わされていた」。
必然的に変化を求められる環境になり、社内で議論や意見交換する機会が増えていったことを、川原社長はプラスと感じていたようだ。
「過去の成功体験などが変化を阻むことがあるが、それに引っ張られることなく、前進できた。お客さまに問いかけて、認めていただいて、それが次のチャンスに繋がっている。失敗もあったが、成功するために再度チャレンジするのだと思えば、全てが糧になる」。
コロナに対し、一丸となって前向きに取り組めたことで、「どのカテゴリーも力強く進展した」と川原社長が言うように、業績にも結び付いた。
2022年をみると、『ミンティア』は本質的価値である“オンタイムリフレッシュ”への対応を強化することで継続的な需要を喚起し、出荷金額ベースで前年比103%と伸長、底を打った2021年から回復軌道に乗ってきた。
『アマノフーズ』は、まとめ買いや備蓄需要に対応したことで同102%、『1本満足バー』は多様な喫食シーンの提案で同104%とそれぞれ増加し、『ディアナチュラ』も健康志向の高まりで同106%と着実に成長。『和光堂』は、共働き世帯の増加による簡便・時短ニーズを捉え、同111%と2ケタの伸びとなった。『バランス献立』も、介護食作りの負担軽減に貢献し、同108%と好調に推移した。
食と健康の課題解決で「心とからだの健やかさ」に貢献
今年1月26日に大手町ファーストスクエアカンファレンスEASTタワー(都内千代田区)で開催した2023年事業方針説明会で、川原社長は「サステナビリティへの貢献を事業のど真ん中に置く」ことを高らかに宣言し、「当社の長期ビジョン〝私たちは、『おいしさ+α』を追求し、『心とからだの健やかさ』の実現に貢献する企業を目指します〟を1年かけて浸透させつつあるが、この事業活動そのものが社会貢献の解決に繋がっている」と説明した。
その具体的な取り組みについて、経営企画部の中川夕梨子担当副部長(写真右)は、「健康、環境、人、コミュニティという4つのマテリアリティを掲げた。このうち健康マテリアリティが事業そのものの領域であり、サステナビリティの中心となる」と説明。
健康では、「手軽でおいしい食事とゆとりの創出」「栄養や食生活に役立つ情報提供」「からだの健やかさ」「心の健やかさ」「グループ素材を活用した健康提案」をテーマに取り組む。
環境面では、容器の薄肉化やプラスチックパーツの廃止、資材の簡素化など環境に配慮した容器包装の拡充に取り組み、2023年のプラスチック削減量を『ミンティア』で約170㌧、『ディアナチュラ』で約24㌧を目指す。
キャラバンで大きな学び
約1年前の前回のインタビューでは、「大きいことから小さいことまで、やりたいことがたくさんあり過ぎて困っている」と笑いながら話していた川原社長だが、その時にまずやるべきこととして挙げていたのが、全国の工場と営業拠点を巡るキャラバンだ。
同社には、工場が子会社を含めて7カ所、地方支店が6カ所、東京の支店2カ所と研究所が3カ所、そして本社がある。昨年は各拠点を全て巡り、「本当にやって良かった」と、かなりの手応えを感じたようだ。
その目的の一つは、長期ビジョン「私たちは、『おいしさ+α』を追求し、『心とからだの健やかさ』の実現に貢献する企業を目指します」を“標語”にしないこと。
「長期ビジョンを知っている社員は8割、共感する人も8割。一方で、自分の仕事に生かしている人はやや下がる。こうしたビジョンを“自分事化”するのは、とても難しい」。
だからこそ、社長自らが出向いて社員と会話し、腹落ちしてもらうことが大切になってくる。
「“おいしさ+α”は、我々の事業の中にしっかりと根付いていないといけないこと。“おいしさ”は決して疎かにはできないし、どこまでも追求しなくてはいけない。“おいしさ”と“+α”の両立は、マーケティングや開発、生産、品質管理、企画など全ての部門で意識すべきこと」。
だが、営業が思う“おいしさ+α”と、工場が言う“おいしさ+α”は、当然のことながら違ってくる。
「各拠点を巡った際、『あなたの仕事の中の+αは何ですか? 』と問いかけ、語ってもらった。こういうことは毎日考えることではないし、もしかしたら、私(社長)が来た時だけかも知れない。だが、1年に1度でいいから考えてくれたら、それでいい。もしかしたら、ふとした時に2度3度と思い出してくれるかも知れない」。
全て巡ったと言っても、昨年はコロナ禍だったので、大掛かりなことは出来なかった。
「全てを私に話してくれるとは思わないものの、なるべくそういう雰囲気を作りながら、中にはさらけ出してくれる人もいたし、後でメールをくれる人もいた。そういう中で、現場とこちらの温度差など、いろいろと学ぶことがあった」。
例えば、ある場所では「“心とからだの健やかさ”に貢献しているということが実感できない」と言われたという。
「それは、その人にとって仕事が意義付けされていないということ。そうなると、仕事が単なる作業という感覚に陥ってしまい、“早く終わらせたい”と考えてしまう日があるかも知れない。そんな毎日の中で、“お客さまの役に立っている”と思えるような意義付けを会社が提供しないといけない」。
現場を巡り、いろいろな学びや手応えを感じたとはいえ、まだまだ十分ではないと考えている。同社の社員は1300人ほど。そのうち約3分の1が、昨年のキャラバンに参加した。
「頑張れば社員全員にリーチできるというのが私の考え。本部長、部長などは直接接する機会が多くあるが、現場の社員となるとそうない。だが、キャラバンを3年も続ければ、計算上は全員と会えることになる」。
もちろん、そう単純にいかないことは分かっている。だが、「皆のところへ行ければ、語りかけられることや、響いてくるレベルが違ってくる。変化が激しい中で、その変化をタイムリーにダイレクトに伝えたい」という強い思いがあるからこそ、キャラバンを社長の重要なライフワークの一つに位置付けている。
「キャラバンは1年や2年で済むものではない。5年、10年と長い時間を掛けて、じっくりと、限りなく続けていく」。 今年も既に、全国巡回が始まっている…
(続きは2023年夏季特大号24頁へ)
『ミンティア+MASK』は、コロナ禍のマスク着用時専用として2021年3月に登場。『ミンティア+MASK ペパーミント』(右上)『同 シトラスミント』(右下)の2品を発売した。独自設計のカプセルが弾けることで、口の中から鼻腔までふんわりと心地よく爽快な香りが広がり、持続する。マスク着用時に食べても目に染みないよう、やさしい清涼感に仕上げた。同年10月にこの2品をリニューアルするとともに、大粒タイプの『ミンティアブリーズ』でも『+MASK』を新たに投入、『ミンティアブリーズ+MASK レモンライムミント』(左)を発売した
2022年12月に期間限定で発売された『ミンティアブリーズ 濃苺(こいちご)』(既に終売)。あまおう苺フリーズドライパウダー、あまおう苺果汁使用アロマビーズを使用し、濃厚な味わいを表現した
『ミンティアブリーズ』史上最強ミントの清涼感が楽しめる『ミンティアブリーズ ウルトラブラック』(4月発売)は、3月に劇場公開された映画「シン・仮面ライダー」とタイアップ広告を展開した
今年3月に発売した『ミンティア クリームソーダ』(右)『ミンティア プリン』(左)は、ニューレトロをテーマにお菓子を食べる楽しさ、幸福な気持ちを提供し、10代から20代の若年層に受け入れられた。また、『ミンティア』発売以来初となる薄肉軽量化容器を採用し、プラスチック使用量を削減した
【プロフィール】川原 浩(かわはら・ひろし)
1966年生まれ(57歳)。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入社。その後、銀行や投資会社を経て、2020年3月に専務としてアサヒグループ食品に入社。2021年3月から現職。