M&Aから見る製菓・製パン業界の未来(最終回) 株式会社日本M&Aセンター

食品業界専門グループチーフ 高橋 空

2023年上半期の製菓・製パンМ&A事例

 2023年上半期は新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、いつかの日常が戻ってきた。一方で、鳥インフルエンザの拡大による、鶏卵不足の深刻化や、長引く原材料とエネルギー高騰など、製菓・製パン業界にとっては、まだまだ難しい局面が続いている中、上半期に成立した4事例を紹介したい。

 最初に愛知県のロピアによる東京都のCOMMEPARIS(コムパリ)の譲受事例である。ティーキャピタルパートナーズ(東京都)が運営するファンドの投資先で、愛知県でチルドスイーツ企画・開発・製造のロピアは、東京でカヌレなど洋菓子商品企画・開発・製造・販売のコムパリとのМ&Aに踏み切った。コムパリは2015年に設立した会社であり、ギフト向け高価格帯製品による催事出店を本格的に進めており、大手百貨店との取引実績が豊富。ロピアは2016年からティーキャピタルパートナーズのもと経営を行っており、コンビニエンスストアと食品スーパー向けに様々なデザートを製造することを強みとしている。異なる販路・価格帯の商品を有する2社間で、主に製造・商品開発・ECなどのノウハウ共有を進めるとしている。

 2つ目が兵庫県の田口食品によるアメリカのブルックリン・ブランズの譲受事例である。洋菓子ブランド「オランジェ」などで知られている、洋菓子・アイスクリーム・せんべい製造・企画・販売の田口食品は、アメリカのCorbel Capital Partnersの投資先で焼菓子製造・企画・販売のニューヨーク州を拠点とするブルックリン・ブランズとのМ&Aを行った。ブルックリン・ブランズは1943年に創業し、アメリカ国内のグロサリーストア、スーパーマーケット向けに「Lilly's」というブランドで焼菓子の製造・企画・販売を行っている。田口食品は人口減に伴う国内市場の変化を見据えて、成長が期待できる米国市場でのシェア拡大を目指していく。最大で社員3人をブルックリン・ブランズに派遣し、日米経営陣の協力のもと顧客価値の創造を図っていく。

 3つ目が広島県のタカキベーカリーによる福岡県のトランドールの譲受事例である。ベーカリービジネスを展開するアンデルセン・パン生活文化研究所の子会社であるパン製造のタカキベーカリーは、JR九州の子会社である福岡県のパン製造業であるトランドールのベーカリー事業を譲り受けた。トランドールは1992年に設立し、九州の主要駅やショッピングセンターなどで「トランドール」「グレンドール」などを展開している。アンデルセングループは日本初の冷凍パン技術を確立し、冷凍パン生地を使ったベイクオフシステムによる「リトルマーメイド」を展開。「トランドール」「グレンドール」も同社のベイクオフシステムを活用しており、これまでに「トランドール」「グレンドール」が培ってきた九州エリアにおけるブランド力とお客様との信頼関係を引き継ぎ、グループの九州エリアにおける事業成長において、重要な位置づけの店舗として更なるクオリティ向上に取り組む。

 最後は大手菓子総合メーカーのブルボン(新潟県)によるマルキンの譲受事例である。ブルボンは投資ファンドであるキャス・キャピタル(東京都)と共同で新会社を設立し、バウムクーヘン、プチケーキなど製造・販売する愛知県のマルキンとのМ&Aを行った。マルキンは1964年に設立。売上高約50億円の流通・小売業向けバウムクーヘンの取扱量でトップクラスを誇る会社である。ブルボンはマルキンと製品戦略やグループ経営の展開を加速させる。

 製菓・製パン業界は今後も難しい局面が続くと予想できる。そういった中、自社の未来や業界の先行きを考え、自社単独では描けないビジョンを実現するための手段として、М&Aが積極的に選ばれていくだろう。

 (完)

たかはし そら

1991年9月、神奈川県生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、株式会社船井総合研究所にてフードビジネス専門のコンサルティングに従事した後、日本M&Aセンターに入社。食品業界専門グループにて、食のベンチャー企業のイグジット支援から創業100年を超える老舗企業の事業承継支援まで幅広くM&A支援に携わる。