「老舗企業のあくなき挑戦」を語る
東京都産業労働局および(公財)東京都中小企業振興公社が開催した中小小売商業活性化フォーラムで、虎屋の黒川光博代表取締役会長が基調講演を行った。フォーラムのテーマは、「逆風を追い風に 予測不能な時代を乗り切るための経営戦略」。2月27日から3月24日までオンラインで録画配信された。基調講演で黒川会長は、「大切なのは今 老舗にあって老舗にあらず 室町時代後期から続く老舗企業のあくなき挑戦」と題し、ジャーナリストの福島敦子氏と対談。老舗和菓子屋でありながら時代の変化に対応し、挑戦を続けている虎屋の今日に至るまでの歩みや出来事、2020年の息子への事業承継の経験などを語った。
コロナによる打撃と影響
福島 黒川会長にずいぶん前に取材した時、虎屋に対する強烈な印象が、今回のタイトルにもある「老舗にあって老舗にあらず」だった。500年もの歴史を積み重ねてきた老舗でありながらも新しい挑戦に果敢に取り組んできた、スタートアップ企業のような一面も感じ、それが長い歴史を紡いできた原動力にもなっているという印象。これまで数々の苦難を乗り越えてきた虎屋の強さ、挑戦を重視する企業カルチャー、また経営者として大切にしている考えを伺いたい。
直近のところで、コロナによる打撃は虎屋にとっても甚大なものだったと思う。コロナによる影響と、それをどう乗り越えてきたのか。
黒川 コロナは今まで経験したことがなく、どうなるか分からないままのスタートだった。まずは、社員が安心して働けることを考えなくてはいけない。緊急事態宣言が2020年4月に発令されたが、その数日前から百貨店などに“店舗を閉めたい”とお願いし、赤坂店も緊急事態宣言の数日前にクローズした。働いている人が出社しなくて済むように、恐怖を与えないようにすることを考えた。
結果として、売上げは例年の2~3割で推移し、緊急事態宣言が全国で解除されてからも、低い水準だった。その間、皆に安心してもらいたいという思いから、4月から夏前までに4回、「心配しないでゆっくり休んで」「この期間をマイナスととらえず、次の新しいスタートに向けての充電期間と前向きに捉えよう」ということを発信した。
実際には、今までにない気付きが大変多くあった。和菓子は季節を感じながら召し上がっていただきたいと常に言っていたが、自分が本当に自然や野に咲く花に目を向けていたかというと、実際には毎日の仕事に追われて目を向けていなかった。コロナ禍になったことで時間的余裕ができ、季節の移り変わりに気付かされた。
虎屋には歴史がある、何百年も続いていると言っていただくが、普段は歴史を殊更意識することはない。毎日やらなければいけないことをやっているにすぎない。ただあの時思ったのは、もし歴史に感謝するのならば、いま我々がこうしていられるのは先祖のおかげ。過去にも危機は何度もあったが、それを皆で乗り越えてきたのだから我々も大丈夫。苦難があった歴史を知っているから、この時期も乗り越えられると思った。
福島 歴史を振り返ると、明治維新の東京遷都にともない京都の店はそのままに東京へも進出。東京大空襲では工場が消失し、戦後の原材料不足で休業に追いやられるなど、色々な苦悩を乗り越えてきた。その結果、500年もの歴史を積み重ねてきた。もう一つすごいのは、今なお強いブランド力を持っていること。この強さは、どこから生まれてきたのか。
黒川 いつの時代も、働いてくれている人に恵まれていた。いくら経営者が頑張っても、社員が居てこその会社。その人たちが、思いを一つにして困難に立ち向かってきたから生まれたのだと思う。
(つづく)
黒川光博(くろかわ・みつひろ)
1943年、東京都生まれ。虎屋十七代。学習院大学法学部を卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)勤務を経て、1969年虎屋に入社。1991年に代表取締役社長に就任。全国和菓子協会会長、全日本菓子協会副会長、(一社)日本専門店協会会長等を歴任。2020年の光晴氏への事業承継以降、会長職を務める。