M&Aから見る製菓・製パン業界の未来⑤

株式会社日本M&Aセンター

食品業界専門グループチーフ 高橋 空

逆境乗り切る老舗菓子企業

 九州・熊本のお土産菓子として有名な「黒糖ドーナツ棒」を展開する創業70年を超える老舗菓子メーカー「株式会社フジバンビ」は2018年、PEファンドである日本投資ファンドと資本業務提携を結び、熊本のお菓子会社から「全国区のお菓子メーカー」になるべく挑戦を続けている。

 2018年当時からフジバンビは地元で圧倒的知名度を誇っており、九州各県で空港・駅にて土産物としての販売により業績も良好であった。一方、後継者不在の悩みと今後の企業としての成長に不安感があり、成長戦略としてファンドとの資本提携を実行した。

 資本提携後、2019年に日本投資ファンドが、大手菓子メーカーで取締役を務めていた田中三正氏をトップに招聘し「新商品の開発」と「販路の拡大」に注力をした。

 新商品の開発においては、主力商品のドーナツ棒を九州のご当地味に仕立て、次々に新フレーバーを発売。福岡ではあまおう苺、大分はカボス、宮崎はマンゴーといったヒット商品につながった。田中氏の人脈もフル活用し、誰もが知っている森永製菓のミルクキャラメル、ミルクココアとのコラボ商品も発表。市場調査を元にピスタチオを取り入れた新商品など時流とトレンドに合わせたラインナップを揃えて新たな顧客の開拓に成功した。

 販路拡大においても、従来の九州エリアを中心としていた営業エリアを改め、関西と東京に営業拠点を新設。ファンドのネットワークを活用しながら、ドラッグストアやスーパーなどにも営業マンが出向き、地道な営業活動を続けた。小売で絶大な人気を誇るコストコなど大口の販売先を獲得し、一般消費者向けの流通でも広がりを見せた。2割弱だった一般流通の売上比率は短期間で、半分程度にまで急成長した。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、インバウンド消費と観光需要が消滅する中、観光土産が売上の8割以上を占めていたフジバンビは、土産メーカーでいち早く一般消費者向けに販路を切り替え、この苦境を乗り越えていった。

 外部環境が激しく変化していく製菓製パン業界で勝ち残るために、フジバンビのように他社との協調戦略で、市場の荒波を乗り越えることも選択肢の一つに加えて頂きたい。

たかはし・そら

1991年9月、神奈川県生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、株式会社船井総合研究所にてフードビジネス専門のコンサルティングに従事した後、日本M&Aセンターに入社。食品業界専門グループにて、食のベンチャー企業のイグジット支援から創業100年を超える老舗企業の事業承継支援まで幅広くM&A支援に携わる。