業界初! インド出身のCEO
BEIKAの技術で社会ニーズに応える!
亀田製菓が長期ビジョン「グローバル・フード・カンパニー」の実現に向けての取り組みを加速させている。その旗振り役が、6月14日付けで同社代表取締役会長CEOに就任したジュネジャ・レカ・ラジュ氏である。米菓業界初となるインド出身のCEOジュネジャ氏に、亀田製菓における使命や食品事業にかける思いを聞いてみた。
決まっていたアメリカ行きを断って
「スポーツも音楽も好きですが、趣味は仕事ですね。仕事をしている時がいちばん楽しいんです」と、人懐こい笑顔で少々照れながらも陽気に語るジュネジャ氏は、来日して40年近くになる。「論語と算盤」ならぬ「研究者と経営者」という二つの顔を持つこともさることながら、冒頭の言葉のようにその精神性も「日本人の心を持つインド人」と形容したくなるほどだ。流暢な日本語で「魂を込めないといいものは生まれない」など、いまとなってはなかなか聞かれなくなったセリフも随所に飛び出す。
とはいえ、体育会系的な根性論を主張するような雰囲気はこれっぽっちもない。人への接し方はとてもフラットでフレンドリーな印象である。
「インド人がとてもアグレッシブに見えるのに対して、日本人はマイルドで優しい。性格も顔も言葉も違います。けれども心の本質というか魂は似ているのかもしれませんね」とジュネジャ氏は言う。
「日本に長く住んでいますが、名前も顔も変わりません(笑)。でも外出先でインド人を見る視点は、まるで自分が日本人のようです。『あ、インド人がいる!』って(笑)」といい、インドに帰国したときに銀行などに行くと、そのそっけない対応ぶりに、もう少しサービス精神を発揮できないものかとイライラしたりもするそうだ。
かように日本の生活様式や習慣が細胞レベルにまで浸透しているジュネジャ氏だが、その視野は広く志のスケールもケタ違いに大きい。3月の発表会で新たにブランド化した食品事業は、30年後に100億人に迫るといわれる世界の人口を見据えたものになる。
米菓中心の事業から脱却し、「グローバル・フード・カンパニー」をめざす亀田製菓の今後の具体的な食品事業の展開や取り組み、商品開発の方向性、販売戦略に入る前に、ジュネジャ氏のこれまでの経歴に触れてみたい。
インドのパンジャブ大学理学部卒業後、微生物学の修士課程を経て、いわゆるライフサイエンスに近い生物反応工学を学んだジュネジャ氏は、食品をはじめ製薬や化粧品にも応用できる基礎を学び、難関だった海外のフェローシップ制度を利用するための試験にも合格した。
アメリカやスイスの大学など、さまざまな選択肢の中からジュネジャ氏がチョイスしたのは、日本の大阪大学だった。これがジュネジャ氏のその後の運命を大きく左右することになった。
阪大には当時、世界トップクラスの発酵・微生物学の第一人者がいた。「あの人たちと一緒に研究ができるんだったら」と、日本行きを決めたという。
「何かのご縁ですね。日本に来たらだんだん日本のことが好きになりました。日本人も和食も(笑)」というジュネジャ氏は、来日して大阪大学工学部醗酵工学科の研究生となり、酵素反応、酵素工学に関する研究に従事。アメリカ企業への就職が決まっていたものの、ある学会で太陽化学(三重県、山崎長宏社長)の役員と出会ったことをきっかけに同社に入る。「新しい研究をしてこれから世界に出ていく」という、当時の社長をはじめとする役員たちの情熱を肌で感じ、決まっていたアメリカ行きを断って、同社の誘いを受けることにしたのである。
プラントベースドフードの新ブランド
『植物生まれのベースミート』
ほかにはないブロックタイプの業務用(外食・総菜向け商品)。亀田製菓の米菓製造技術を活かして開発。解凍するだけですぐに利用できる。15㎏(12本×5袋)、賞味期間6カ月
『大豆と玄米のベジミンチ』
『大豆と玄米のベジスライス』
『大豆と玄米のベジミンチ』は、大豆独特の香りを抑えて食べやすくリニューアル。130g/1㎏・税抜320円/―、賞味期間2年。新商品の『大豆と玄米のベジスライス』は、湯戻し1分の利便性の高さが特徴。60g/1㎏・税抜320円/―、賞味期間1年
健康・グローバル事業拡大の請負人
太陽化学では基礎研究に没頭した。初めに携わったのはニワトリの卵の研究だった。その後、お茶の研究を進める中、低コストでテニアンの生産方法を確立し農芸化学技術賞を受賞。この栄養素材は世界中で販売され、太陽化学もグローバルな企業として認められるようになっていった。
そうした功績が認められ、40歳を超える頃には取締役に就任。以後海外のグループ企業の代表取締役を歴任する。ちなみにジュネジャ氏が開発・携わった機能性食品は、国際的に高く評価されている。
太陽化学で実績を重ねた後、2014年にはロート製薬の副社長に就任。製薬、基礎化粧品など、これまで経験のない領域でのチャレンジが始まった。ジュネジャ氏は海外事業を担当するなど、同社のグローバル事業を牽引するとともに、日本初のCHO(チーフ・ハピネス・オフィサー)として同社の健康経営についても尽力する。
そんな折り、亀田製菓の田中通泰前会長と何度か会う機会があったとジュネジャ氏はいう。
「『亀田製菓が2050年に向けてどういう会社になるのか』という会に呼ばれました。そこで田中会長から『あなたは亀田製菓をどう思うか?』と聞かれたんです。私は『この会社はなくならない。人が生きるためには必ず食がいる。それに一回食べたらまた食べたくなるような美味しさ、食感を持っている会社です』と伝えました。その後、田中会長からウチに来ないかと誘われるわけですが、まさか自分が入社するとは思いませんでした」と、まるで人ごとのように声を上げて高らかに笑う。
ジュネジャ氏は亀田製菓に入社する前から、『亀田の柿の種』の大ファンだったという。インドに帰る際に日本のお菓子をお土産に持っていくと、「甘さが足りない」などなかなか現地の人には受け入れられないが、同品は例外だった。ビールを飲みながらパクパク食べてくれるという。同品は自分自身も好きだしどの国にもっていっても喜ばれる。加えて、そもそも食にまつわるものが大好きだとジュネジャ氏は話す。
いずれにせよ、そうそうたる企業で研究者兼指揮官として手腕を発揮してきたジュネジャ氏の異色の経歴・実績に共通するのは、健康関連事業推進の旗振り役であり、グローバル事業拡大の請負人ということである。亀田製菓における使命は、まさにその点にあるだろう。
国産米粉使用の「米粉パン」の新ブランド
『おこめ丸パン』
主原料に新潟県産米粉を100%使用した米粉丸パン。電子レンジでもちもち食感、トースターで外カリカリ、中モチッと食感になる。常温保管可能。3個/6個・税抜300円/520円、賞味期間90日
『アルビおこめパン』
メインスポンサーを務めるアルビレックス新潟とタイナイがコラボ。新潟県内のCVS、SMの一部店舗、「TAINAIオンラインショップ」で販売
隠れているタネを顕在化させるためのブランド化
長期ビジョン『グローバル・フード・カンパニー』の実現に向けての取り組みを推進してきた亀田製菓は3月7日、グループ会社のマイセンフード、タイナイとともにプラントベースドフード(PBF)=「JOY GREEN」、米粉パン=「Happy Bakery」、お米由来の乳酸菌=「RiceBIO」と命名し、それぞれのカテゴリーで新ブランドを立ち上げた。
その背景についてジュネジャ氏は、「ブランド化を図ることで、それぞれが亀田製菓の商品ということを顕在化させる」狙いがあるという。
「亀田製菓は『亀田の柿の種』をはじめとする米菓以外でも素晴らしいタネをいくつも持っています。それがこれまで隠れていた。まず当社は海外にも複数のグループ会社を持っています。中国やインドなどアジアに工場をもっていますし、アメリカにも拠点があります。これだけ世界的に展開している食品企業はそれほど多くはありません。海外では電化製品や車といった日本の最先端技術は知られていますが、食はまだまだこれから」と話す。今後日本の文化やモノが海外に出るには、食がポイントになるとジュネジャ氏は読んでいる。
なぜか? 日本の食、いわゆる和食は繊細で美味しい上に健康的だというのがジュネジャ氏の見解である。そういう意味で、米菓は勝ち組なのだと。世界で米菓に取り組んでいる企業はほとんどない。上手に使えば健康志向のユーザーにも受け入れてもらえるかもしれない。
ジュネジャ氏は言う。「現在、アレルギーで困っている人たちが世界中にいます。パンなど小麦を原料にしているものが食べられないとか。そこに向けてこれまで培ってきた米菓の技術を応用した商品を世界中にもっていこうと考えています」
新ブランド「Happy Bakery」は、アレルゲン28品目不使用の100%国産米粉パンだ。「誰もが楽しめる笑顔で囲む食卓を実現する」というビジョンを推進するものになる。米粉パンは数多あれど、28品目アレルゲンフリーの商品は、まだまだ少ない。
「隠れているもう一つのタネが米由来の乳酸菌です。長年研究する中でヘルスクレームも取得している。整腸作用があって肌にいいとか、なぜこれを世界にもっていかないのか。明治や森永、ヤクルトは知っていても、亀田が乳酸菌もやっている会社ということはあまり知られていない。そこをブランド化することで顕在化させたい」とジュネジャ氏は意気込む…
(続きは2022年夏季特大号6頁へ)
お米由来の乳酸菌の新ブランド
(K-1)お米や植物性発酵食品に由来する300株以上の乳酸菌から厳しい基準をクリアした選りすぐりのもの。お米由来の『植物性乳酸菌K-1』(整腸作用、肌の乾燥抑制作用確認)と、酒粕由来の『植物性乳酸菌K-2』(抗アレルギー効果確認)がある。機能性表示食品制度対応(K-1)
防災備蓄商品
個人の備蓄としての利用も増加
国産米100%使用をはじめ、28品目アレルゲンフリー、ハラール認証の商品など、多様なニーズに対応した製品を展開する。大地震やゲリラ豪雨など、災害による自治体や民間企業への納入はもちろんのこと、個人の備蓄や、登山者、海外旅行者の行動食など、広く利用されている。
グループ企業の尾西食品の4つのアルファ米食品が2007年、JAXAによる「宇宙日本食」の認証を取得している。