アスリートせんべい『ミライオニギリ』
いま健康を意識した米菓メーカーの動きが活発化している。そんな新たな潮流に迫るシリーズ第一弾として紹介するのは、日本で初めてうす焼きせんべいの量産化に成功した酒田米菓だ。1968年に第17回全国菓子大博覧会で名誉総裁賞を受賞するなど、欧風せんべい『オランダせんべい』で米菓業界に多大な影響を与えてきた同社が新しい試みとして力を入れているのが、「噛んでフィットネス」を提案する『カムフィット』ブランドの取り組みである。
山形県酒田市で1954年に創業した酒田米菓は、米にこだわる菓子専門メーカーだ。酒田のある庄内平野は米作りに適した恵まれた環境で、美味しい米どころとして知られるが、そうした地の利を生かし、庄内の米を使った製品として、せんべいを売り出したのがはじまりである。
創業者の佐藤栄一氏は、企業家としての手腕に長けていた。元祖うす焼きせんべいをはじめ、OEMとして生地を東京などにも卸したり、ライスクラッカーの製造で海外進出するなど、事業の幅を広げてきた。
そうした企業風土は現社長の佐藤栄司氏にも引き継がれているようだ。生産工場を観光化した『オランダせんべいFACTORY』をはじめ、『遊友結 S-PAL仙台店』『同山形店』などの直売店の運営ほか、クラウドファンディングやYouTubeを活用した製品開発ならびにプロモーションなど、米と製法へのこだわりはそのままに、新しい試みを積極的に展開中である。
おせんべいに健康機能を付加した『カムフィット』ブランドの展開も、同社の新しい試みの一つ。同ブランドを立ち上げるきっかけになった製品が、アスリートせんべいの『ミライオニギリ』(写真左)である。
『ミライオニギリ』の開発は、佐藤社長が(一社)食アスリート協会で理事主任講師を務める馬淵恵氏の「米がアスリートにとって大事」と称した講演を聞きに行ったことが縁でスタートしている。今から4年前の話だ。
馬淵氏は酒田市の隣に位置する秋田県にかほ市出身。保育園児の頃から酒田米菓のオランダせんべいを食べていた馬淵氏は、「幼いころからの酒田米菓のファンであり、米離れが進む中、アスリート向けのせんべいをつくりたい」という思いを佐藤社長に伝えた。こうして酒田米菓と馬淵氏の挑戦が始まった。
酒田米菓で企画室プロダクトマネージャーを務める小野賢人氏は、「たんぱく質ブームとはいえ、せんべいは炭水化物。筋トレなどには向いていないイメージがありました。しかし米というのは身体をつくるうえで非常に大事なものだということを馬淵さんと出会って知りました。これを皮切りに『Happycome(ハッピーカム)無添加』『パタカせんべい』(写真右)といった『カムフィット』ブランドの横展開が始まりました」と、そのいきさつを述べる。
『ミライオニギリ』は、米で炭水化物、いわゆる糖質、エネルギー源になるものと、筋肉や骨、血液をつくるたんぱく源を同時に摂ることができる。それをほぼ無添加に近い状態で実現しているのが大きなポイントだ。基本的には同社の看板製品である『オランダせんべい』の形状がベースになっているが、そこにたどり着くまでに試行錯誤を繰り返した。課題だったのは、形状と原材料の配合バランスである。
(次号5541へ続く・全2回)