第2工場新設でパワーアップ! 有限会社 宇部煎餅店(岩手県久慈市)

南部煎餅最大1日60万枚超に増産

 南部煎餅界最大規模の生産量を誇る宇部煎餅店(宇部清志郎社長)は昨年10月、約7500坪の敷地内に床面積約900坪の第2工場を竣工。コロナ禍の影響を受けて工期延長を余儀なくされたが、昨年12月15日から本格的に稼働した。弊誌は、久慈地区拠点工業団地(久慈市長内町)にある宇部煎餅店を訪問。南部煎餅業界一の生産力を築くまでの経緯や新設第2工場を取材した。

【主な施設概要】

 本社事務所約320坪、第1工場約1100坪、第2工場約 900坪、原料倉庫約550坪など

【主な設備概要】

 全自動厚焼き南部煎餅焼成機、全自動南部煎餅焼成機、全自 動うすやき南部煎餅焼成機、二枚型式南部煎餅焼成機、各種 ミキサー、窒素ガス発生装置、オートチェッカー、大型コンピュータスケール、カートンシラー、パレタイズロボットライン、自動倉庫など

 「琥珀の産地」として知られる岩手県久慈市。人口3万4千人ほどの港町であるが、朝の連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK)のロケ地として全国的に注目を集めたのが東日本大震災から2年後の2013年のことである。

 ちょうどその頃、同市宇部町から工業団地に移転した現会長の宇部清三郎氏と現社長の宇部清志郎氏が真っ先に取り組んだのは、“半自動生産ラインからの脱却”“生産システムのフルオートメーション化であった。

 その背景には、同社の販路が拡大されたこともあるが、安定した生産量とコストリダクションという南部煎餅業界が抱える共通の課題があった。

 宇部社長は当時を振り返り「南部煎餅の生産力は低く、他業種に比べ製品単価が高かった。生産能力を高め、生産コストの低減を図るためには、社運を賭けてフルオートメーション化を図ることにあった」と生産ラインの全自動化に踏み切った理由を説明した。

 

写真右から人気ナンバー1『厚焼きピーナッツ煎餅』、ピーナッツ&黒ごまの『ミックス煎餅』、スライスピーナッツの『ピーナッツ煎餅』、南部煎餅の定番『ごま煎餅』、ごま煎餅を油で揚げた『油煎餅』

■近代化への歩み

 同社が本格的な近代化に舵を切ったのは、移転直後の2012年3月に竣工した第1工場への全自動南部煎餅焼成機の増設からである。

 これを皮切りに、厚焼き南部煎餅焼成機、箱詰め機、パレタイズロボットライン(製品を自動倉庫へ搬送する自動システム)など全自動化を進めたことで、1日の生産量が50万枚を超え、安定した供給量を確保することに成功した。

 一方の生産コストについても、生産業務の効率化・省力化・省人化など、全自動化がもたらす効果が徐々に表れ、移転から4年目の2016年には売上高5億円(前期比30%増)を突破。2019年には売上高9億8千万円に伸ばすなど、堅調に推移している。

■消費者のための“見える化

 2017年6月、同社は約2億4千万円を投じて延べ床面積約320坪の3階建て新社屋を竣工した。こだわりは、2階に設けた食堂兼休憩所のテラスから第1工場内部を窓ガラス越しに公開した工場見学コースである。

 南部煎餅界初となる工場見学コースの設置について「機械化された衛生的な工場を“見える化することは、南部煎餅の暗いイメージを払拭することや消費者に安心と安全を提供することに繋がる」と話す宇部社長。南部煎餅のブランド化に向けた信念の表れといえる。

 また、製品企画にも見える化”を取り入れたことで、ヒット商品が誕生した。それがクッキータイプの『厚焼きピーナッツ煎餅』(以下『厚焼き』という)だ。

 今では、売上全体の60%を占める主力製品に成長した『厚焼き』であるが、発売当初は西日本地区での売れ行きが極めて不振であった。

 原因は、南部煎餅に馴染みが薄い地区での消費者意識、つまり、製品個々の違いが理解されず、その結果、購買を敬遠するという消費者の心理にあった。

 これを打開するために同社が考案したのは、透明パッケージに変更して「クッキータイプの南部煎餅 まるごとピーナッツ」などといった製品説明を加えるという“製品の見える化であった。

 消費者の視覚に訴える製品のブラッシュアップと問屋グループの支援を受けたことで、遂には2018年に厚焼き南部煎餅焼成機の7号機を増設するまでに伸長した…

(続きは菓子食品新聞2022新年特大号58頁へ)

大型コンピュータスケール(計量器)、集合コンベアなどが配置された梱包室

宇部清志郎社長(第2工場前にて)