【新春特別インタビュー】日本製パン製菓機械工業会・増田理事長に聞く

こんな時代だからこそ「モバックショウ」へ!

 新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、人々の日常には多大な制約が求められるようになった。外出自粛で、「巣ごもり需要」「健康需要」といった新たな需要も生まれはしたが、先行きの不透明感から、悲観的な見方をするお菓子メーカーも少なくない。数々の集客イベントや展示会が延期・中止を余儀なくされている。そうした渦中、2020年11月17日に協同組合日本製パン製菓機械工業会は「2021モバックショウ」の記者会見を実施した。増田文治理事長へインタビューし、製パン製菓機械メーカーから見たコロナ禍や、「モバックショウ」の時代的意義等を聞いた。

(取材日:2020年11月17日)

 

 

 

【プロフィール】

増田文治氏

協同組合日本製パン製菓機械工業会理事長。1954年東京都生まれ。1977年埼玉大学理工学部機械工学科卒業。同年㈱不二家入社。1981年新日本機械工業㈱(現:㈱マスダックマシナリー)入社。同年海外留学(American Institute of Baking他)。1999年㈱マスダック(現:㈱マスダックマシナリー)代表取締役社長就任。

当初、大きな影響はないだろうと思った

 

 ――業界を問わず、コロナ禍の影響は依然大きな問題となっています。

 増田 コロナ禍において、実は機械メーカーも少なからず影響を受けています。まず、今年の前半を振り返ってみると、機械メーカーには受注残がありまして、納期は3か月から6か月程度が多いんです。だから2月、3月頃は半年分位の受注残が既にありました。なので、機械メーカーが売上的に影響を受けるのは、それほど大きなものではないだろうと思っていました。

 ところが実際は、日を追うごとに受注残の案件について「ちょっと待ってほしい」と。お菓子屋さんやパン屋さんが、あてにしていた新製品や販売ルート等、それらがどうも雲行きが怪しくなってきた、というわけです。注文のあった機械について、納期の延期やキャンセル、違う目的に使いたいので仕様を変更してほしい、などの要望を頻繁にいただくようになりました。

 4月と5月は仕方ないとして、6月頃からは徐々に回復していくだろうと見ていたところへ、7月に第2波が来たじゃないですか。それまで様子を見ていた多くの方々が考え直し始めた感じです。この状況が11月半ばになっても、続いています。企業によって状況は違うでしょうが、新規受注に至ってはかなり静かになってきてしまいました。コロナ禍では、ユーザー業界が多大な影響を受けているが故、機械メーカーもまた、煽りを受けているわけです。

 ――お菓子メーカーの新製品を見ると、“守りに入っているのを強く感じます。

 増田 コロナ禍の中でどう生き残っていくか、ユーザーの皆様は真剣に考えておられるようです。例えば、みやげ菓子を中心に生産していたメーカーが「スーパーやコンビニで売るおやつ菓子へシフトしないとマーケットが無くなる」という方針に切り替えたという例もあります。そういった方向転換に対応できるよう、機械の仕様変更や部分的な改造等の仕事が多くなっています。

 もう一つの特徴は、従来お菓子づくりに関わっていなかった企業がお菓子の製造を始めよう、という事例もあります。コロナ禍をきっかけに、これまでのテリトリーだけではなく、別の事業にも目を向けようと。小さな機械の場合は、異なる業界からの新規ユーザーの注文が多くなっています。世の中これだけ変化してきて、生き残りを図るために何かできることはないかと模索しているのです。どの業界にも、新たな活路を見出そうと頑張っている企業があるのですね。

 かわいらしい、結構ポップなデザインのハンコを作っている或る企業では、メインのユーザー層が若い女性であることから、彼女達をターゲットにしたお菓子を展開したい、と。その他には、運送業、建設業など。驚きますよね。

 ――運送業もですか?

 増田 同じ業態でも様々なケースがあると思いますが。運送業の参入例としては、或る地方の和菓子店が地元でとても人気のどら焼きを作っていたんですが、後継者不在等で閉店しましてね。何とか復興しようと、当事者から作り方を教わり、新たに売り始めたら、人気が出てきて。これはもう機械化しよう、と事業拡大に至りました。

 ――お菓子業界の変貌は、機械メーカー側からでも見えていたんですね。

 増田 ご承知のように、観光土産や、インバウンドの売上がかなり落ちました。百貨店や土産店での販売が主軸だったお店は非常に大きな影響を受けています。売上が90%以上落ち込んだメーカーがあるとも聞いています。それほど、観光の需要というのはすごかったわけですよ。仮に同じ土産菓子をコンビニエンスストアに置いたとしても、1人が買うのは2個3個が限度でしょう。お土産と日常では客単価に大きな差があります。売上的には全然、追いつきません。個別の企業に限った話ではなく、観光カテゴリー全体の問題です。東京駅や羽田空港、地方で言えば、札幌や福岡。観光客に買っていただいていたお菓子はかなり落ち込みが激しいし、正常化には時間がかかると思います。

 

 

これまでのモバックショウの推移

約半世紀にわたって、製パン製菓業界に携わり、機械化を支援し続けている

 

人が動かなければ売れないジャンル

 

 増田 ビジネス面ではテレワークやリモート会議に置き換わり、新幹線や飛行機の利用がかつてないほど激減しました。

 新しいマーケットの開拓や、流通ルートの見直しなど、あれこれ考えて試そうとしても、如何せん、人の動きが以前のように回復しません。出入国は困難だし、国内でも今は「第3波の到来か」と言われ出し、地域間の移動を押さえる方向に動いてきている。人が動かなければ売れない、と改めて、皆さん実感していると思います、特にお菓子は。パンは、逆に巣ごもり需要で、住宅街のおいしいパン屋さんの人気が高まって、むしろ売上を伸ばしている所もあるようですね。

 長引くコロナ禍は、人の移動だけではなく、残業代やボーナスといった収入面にも影響がありました。移動や家計が制限される中、子供も学校へ行けず、遊びに出かけられなくて。家の中でゴロゴロせず、家族で何かを楽しもうとしたら、近場だったわけです。例えばシャトレーゼのように、どちらかと言えば郊外で、アイスクリームやパン、お菓子も売っている店。良い品質のものを全体的にコストパフォーマンス高く提供しています。そういうお店はすごく需要があったんですね。この状況下でも勢いがあります。

 ――給食がなくなり、パンを卸していたパン工房が、一般売りを始めたら、行列ができるほど繁盛して、週末は毎回売り出すほどになった店もあるとか。

 増田 家にみんな居続けるとね、もう、お母さんもイヤになってきますよ。ご飯炊いたり、おかず作るより、パンを買ってきたほうが助かります。焼きたてのパンをね。そういうケースが顕著になったのでしょう。ただ、繁華街やビジネス街では、コンビニも含め、売上が減ってますよね。業態も含めて、場所と地域によって、全然異なる状況になりました。コンビニでも好調な店は個別にあるだろうけど、やはりビジネス街では全然ダメだと聞きます。これはもう、人の動きと合致してますよね。

 ――国内はもちろん、海外とのやり取りも、現実は厳しいようですね。入出国制限の緩和も始まったようですが。

 増田 やはり相手国との問題になりますから。例えば台湾は相当厳しいです。今後如何では、検疫の待機が14日間ではなく28日間になる可能性もあると聞きます。ちょっと行ってサッと帰る、というふうにはいきません。他の業務も考慮すると、実際は簡単に渡航できないですよね。

 最初に、機械メーカーへの影響で受注や売上の面を申し上げましたが、海外においても問題は起きています。すでに出荷した機械の試運転ができなかったり、据付ができなかったり。結果、本稼働できずそのままになっているというケースが結構あるようです。海外へ人が送れなくても、簡単な機械なら、現地の機械屋さんに助けてもらいつつ、リモートで指示をして、動かした例もあります。しかし、複雑な機械になると、自社メーカーの技術者が直接行かねば難しいですから。

 お客さんも買った以上は、早く動かしたいから「来てほしい」となるのは当然ですが。そう言われても、向こうへ着いてまず2週間待機、仕事が終わり、帰国してからまた2週間待機。他の仕事ができないだけではなく、費用も馬鹿になりません。さらに、万が一、現地で感染して治療となった場合はどうすべきか等、色々な問題が現存します。機械メーカーの皆さん、かなりご苦労されていると思います。ただ設置すれば済むものではなく、動かしながら調節していくのが大事ですし。

 ――状況はどの位続くと予想されていますか?

 増田 続くというか、コロナの正体が結局まだ分からないでしょ。どんどん変異しているという話もありますし。ワクチンだって、ある種には効くけど、別の種には効かないとかね。ある程度の決着までには数年かかるんじゃないですか?

 思い起こせばバブル崩壊の時、かなりのインパクトがありました。各業界を支える銀行でさえ、ものすごく大変なことになったじゃないですか。その後のリーマンショックは、金融業界は大変でしたが、全産業がダメになることはありませんでした。そういう意味では、バブルの崩壊に次ぐ大変化が今起こっていると、考えざるを得ません。

 バブル当時を社会人として知っている世代と、平成生まれの世代とでは価値観が全然違うというか、ギャップが生じました。コロナ禍がいつまで続くかは不透明ですが、同じように、生活形態や概念が変質していくかも知れません、ビフォアとアフターで。人々がどういうふうに変化していくのかを注視していかねばと。その上で、皆さんそれぞれが持っている得意な面をどう当て嵌めて、この先どう新しい売り方や製品をつくっていくのか。やり方次第では商機につなげられると思います…

【続きは5485号34頁へ】