日本食品添加物協会 上田要一専務理事にきく
人類が文明社会を切り拓いてきたその背景には農耕や調理、保存技術の発達がある。そして長い歴史の中で、さまざまな食品添加物を生み出し、上手に活用してきた。しかし「飽食時代」の現代社会においては食品添加物に対する「根拠なき誤解」も多い。日本食品添加物協会の上田要一専務理事(写真)に、人類と食品添加物との関わりや誤解払拭へ向けた考えをきいた。
豊かな食生活に不可欠 根拠なき誤解は正したい
人類の進化とともにあった食品加工技術
-私たちの食生活で普段何気なく使っている食品添加物ですが、歴史は古いそうですね。
上田 人類は文明社会を切り拓く遥か以前から加工食品と向き合ってきました。文献によると、約50万年前の原人時代から「燻蒸燻製」という加工技術を用いていたことが分かっています。人類の進化はいわば「調理や保存食品・加工食品」の発達がもたらした結果とも言えます。
原始時代まで、人類は狩猟採集に必要な過酷な運動をする、硬くて消化の悪い収穫物を咀嚼し、消化する。そういう営みのためにエネルギーを使ってきましたが、調理や保存技術の登場により、他の文化的な活動にエネルギーを振り向け、大きな顎や長い消化管は必要なくなり、体型を変化させていきました。つまり調理や加工食品が人間の遺伝子を変えたのです。
特に農耕技術の発達で人々は多くの食べ物を一度に入手しやすくなりました。また季節による収穫量の変動が食品の腐敗や品質劣化を防ぐ保存技術の発達を促しました。
-わが国の食品添加物の歴史は?
上田 縄文時代にはすでに「火食」が始まっています。弥生・古墳時代には塩蔵や賦香(わさびや山椒)といった食品保存(加工)技術を身につけていました。やがて、にがりを用いた豆腐や醤(ひしお)のような発酵食品など、わが国独特の食品も生まれます。やがて昆布や鰹節に「旨味」があることを知り、1908年の池田菊苗博士による旨味調味料(グルタミン酸ナトリウム)の発見につながるわけです。
根拠なき悪い誤解のそもそもの要因とは
-食品添加物の「誤認拡大」も課題です。
上田 今年3月に消費者庁が「食品添加物表示制度に関する検討会」の報告書をまとめました。当会では意見書を提出して「無添加」や「添加物不使用」などの表示は消費者の誤認を前提とした表示であり、誤解を招くばかりか、食品表示制度そのものの信頼を損なうものとして、その改善を求めました。それを受け報告書は「誤認」拡大防止へ向けて新たな「ガイドライン」を作る必要があると明記されました。
-欧米で禁止されている食品添加物が日本で使われていることを危険視する意見もありますね。
上田 日本で使われている食品添加物が、ある国で「もともと使用されていない」とか、あるいは「使われなくなった」ため、その国のリストに載っていない場合がありますが、これは安全上の理由で禁止されているわけではありません。また日本の法律で食品添加物として扱われているものが、欧米では食品として扱われている場合もあります。これは欧米と日本とで食品添加物の定義が異なるためです。
正しい知識の普及と理解促進へ最大努力
-東京大学名誉教授で食の安全にも詳しい唐木英明氏は、水俣病などの公害の元凶が「化学物質」にあり、その悪いイメージの煽りを食品添加物は不当に受けていると話します。
上田 食品添加物と人類との関わりは古いのです。食品添加物は食品の腐敗や食中毒を防ぐだけでなく、産地や地域に関係なく便利で豊かな食生活を享受する上でいまも大きな役割を果たし続けています。その認識を社会全体で共有していくことが何よりも大事です。今後も協会活動を通して正しい知識の普及啓発と理解促進に向けて、怯むことなく最大限の努力を傾けていきます。
■一般社団法人日本食品添加物協会
1982年(昭和57年)設立。会員に対しては、製造・販売・使用に向けたコンプライアンス遵守の徹底を図るとともに、消費者へは食品添加物の安全性と有用性についての正しい理解のための普及啓発活動に取り組んでいる。会長は木村毅・味の素株式会社アドバイザー。現在の会員数は920社。
■食品添加物は食品衛生法において「添加物とは食品の製造過程、食品の加工や保存の目的で食品に添加・混和・浸潤その他の方法で使用する物」と定義づけされている。