トップインタビュー 亀田製菓株式会社 代表取締役社長COO 佐藤 勇 氏 第1回

グローバル・フード・カンパニーへの道

コロナ禍で見えてきた新しい消費のカタチ

 米菓業界のリーディングカンパニーである亀田製菓は現在、中期経営計画(2023年度まで)の下で「グローバル・フード・カンパニー」なる旗標を掲げている。それは米菓という枠を超えた未来志向型の新たな企業価値創出のための挑戦とも言える。同社生え抜きの佐藤勇社長のインタビューを連載(全3回)でお届けする。

 

 

巣ごもり需要追い風

 ――コロナ禍に揺れる中で発表された第1四半期決算(短信、2021年3月期)を見ますと、業績好調ですね。

 佐藤 ありがとうございます、お客さまのお陰です。数字的には売上高248億円で対前年同期比5.7%の増収です。利益も確保できました。新型コロナの感染拡大予防を図るため、政府は4月に緊急事態宣言を発出し、多くの方が外出自粛を余儀なくされました。その頃からいわゆる「巣ごもり消費」という新しい家庭内需要が顕著になり、それが結果的に業績を押し上げる材料になりました。これは米菓業界に限らず、国内のお菓子業界すべてに言えることだと思います。

 一方で、外出自粛の流れはギフトやお土産市場にとってきわめて大きな打撃を与えました。当社グループ会社の「アジカル」と「とよす」も例外ではなく、苦戦を強いられる形となりました。

 ――好調の理由は?

 佐藤 国内米菓事業について言うと、足元の巣ごもり消費などによる需要増加に対して「生活必需品」としての供給責任を果たす。これを最優先にすることに決めて、生産・販売インフラの維持に全力を注ぎました。その上で一部商品の終売や休売を行い、主力商品の製造販売に集中する策を打ちました。これが功を奏したと思っています。

 ――絞り込みですね。

 佐藤 当社はいま中長期におけるブランド育成の観点から、主力ブランドに経営資源を集中しています。その需要喚起策として、例えば『亀田の柿の種』では昨年秋に国民投票を実施して、そこに寄せられたたくさんのお客さまの声を丁寧に聴きました。その結果をもとに、今年の5月におよそ40年ぶりに柿の種とピーナッツの配合比率(重量比)を6対4から7対3に変更することにしたのです。

 かなり勇気のいる決断ではありましたが、元々のファンの方々はもとより、これまであまり関心を寄せてこられなかった方々までをも引き寄せることができたのは大きな意味がありました。また主力ブランドについても『亀田の柿の種』、『ハッピーターン』、『ソフトサラダ』、『つまみ種』、『ぽたぽた焼』、『揚一番』などが売上高で前年同四半期を上回ることができました。

 

先行きは不透明

 ――食品事業はどうですか。

 佐藤 新型コロナの影響もあり、個人消費を中心に備蓄需要が拡大しています。その結果、グループ会社の「尾西食品」の看板商品で長期保存できる『アルファ米』や「マイセン」が販売するアレルゲンフリーの『玄米パン』などが好調に推移したことで、グループ全体の業績向上に大きく貢献しました。冒頭に申し上げた観光チャネルやギフト向けに商品を供給する「アジカル」と百貨店向けの「とよす」の苦戦をこの食品事業と国内米菓事業の業績でカバーしている状況です。コロナ禍が収束するまでは、この状況は続くものと見ています。

 ――「巣ごもり消費」も一時のような勢いがなくなっているのでは。

 佐藤 たしかに3月から5月までは「巣ごもり消費」は強いものがありました。ところが緊急事態宣言が解除されて、人々の動きが徐々に普段通りに戻り始めた6月頃から明らかに需要は落ち始めました。それまで買い込んで貯めていた「自宅在庫」を捌くために買い控えが起きたとみています。自宅にあるから、わざわざお店に行ってまで買う必要がない。この「在庫調整」にひと月くらいはかかると見ていましたが、この点は予想通りでした。

 7月に入ると受注が上向き始め、とりわけ『亀田の柿の種』のようなおつまみ系の商品が突出する形で売れ始めてきたのです。従来から「家飲み消費」というのはあることはあったのですが、コロナ禍で明らかにそれが膨らみ、そのためにおつまみ系の需要が増えたのだと思います。

 当社ではそのようなお客さまの消費行動に変化が起きていることを「現場目線」で感じていたこともあり、おつまみ系商品の強化を進めてきました。それも業績好調を支える結果となりました。とはいえ、おつまみ系以外の米菓で需要の落ち込みが見えてきており、米菓全体の需要喚起を今後どのように進めていくかが大きな課題です。

 8月に入ってからも依然として「家飲み消費」は顕著でお陰さまで『亀田の柿の種』は絶好調の売れ行きです。

 一方で、新型コロナの影響で人の動きが少ないので、今年は「大型連休の需要」に期待することは難しいとみています。コロナ禍がいつ収束するかによって消費動向も大きく変わりますが、正直この先をどう読めば良いのか。まさに先行き不透明というのが実感です。

 ――次回はこちらも業績好調の海外事業についてお聞きします。

(続く・全3回)